「ふじゆう」と「自由」 中高生が作る「対話生むアート」 東京、横浜で展示 /毎日新聞 2020.2.13
東京や神奈川の朝鮮中高級学校の美術部による「不自由」「自由」をテーマにした展示が、今年に入って相次ぎ開かれている。昨年の「あいちトリエンナーレ2019」で「表現の不自由展・その後」が一時中止されたことを受け、それぞれの部員が、社会や自分の内面と向き合って制作に取り組んだ。各会場には、外部アーティストの出展も含む多様な作品が並んだ。
光と影と自分自身
横浜港大さん橋国際客船ターミナルロビー(横浜市中区)で14日まで開かれている神奈川朝鮮中高級学校の展示のテーマは「『 』の自由」。観光客らに部員が積極的に声をかけ、作品について説明している。
金滉基(キム・ファンギ)さん(高2)の「暗い光」は、モノクロ写真のモザイクアート。深夜残業などによる過労自殺のことを知ってから、美しいと思っていた夜景が違って見えるようになった。誰が作っているのか、と問いかける。「モザイクの一枚ずつが、ひとりひとりの労働や生活の明かりを表しています」。そう聞いた男性は「高感度で撮った粒子の粗い写真かと思った」と驚き、顔を近づけて見入っていた。
板に黒い油性ペンで肉食獣を描いた李佳音(リ・カウム)さん(高1)の「ワナビー(wannabe)」。自分にないものを求めていた過去を、思うままに表現した。輪郭の内側に描き込んだのは、風や花、鳥、魚、傷などのイメージを図案化した模様。「うらやむ気持ちも、ルーツも、欠点も全部が私を形作っている。体に刻んで美しさに変える」
教育無償化をめぐる在日コリアンの訴えに、きちんと光が当たっていないと考える金昌栄(キム・チャンヨン)さん(高1)は、油彩「silhouette(シルエット)」で漆黒の人影の存在感を際立たせた。「作品に込めたメッセージを受け入れるか、深く掘り下げるか、その後も脳内に残すかといったことも、その人の自由。まずは、こういう現実があるということを知ってもらえたら」と呼びかける。
展示は13日が午後5時~7時。最終日の14日は午後3時半~6時。
見て、話して、近づく
1月22~28日に東京芸術劇場アトリエイースト(東京都豊島区)など2会場で開かれた東京朝鮮中高級学校の「ふじゆうトピア」には、計1300人超が訪れた。あらゆる人に無言の圧力がかかり、自由ではない状況をあえて「理想郷」と名付け、その住人として「表現で楽しむ」という設定。絵画や立体、インスタレーションなどで熱量を伝えた。
カラフルなペンをマスメディアやSNS上の言説一つ一つに見立て、地獄にあるとされる剣山状に配置した「PEN山刀樹」。作者の金容伯(キム・ヨンベク)さん(高3)は、「鑑賞した人自身が内面で感じ、解釈しようとすることで、すっと入ってくるのがアートの良さ。作品を仲立ちにして、互いの理解につながる、深くて良い場が作れる」と語る。毎年訪れる「常連さん」もいて、卒業生と談笑することもあるという。
部顧問の崔誠圭(チェ・ソンギュ)教諭(52)のモットーは「楽しく見守る」。一人の作家として展示に参加し、作品で型にはめる教育を風刺した。
来場者の多くは、たまたま通りかかった人たちだ。アンケートに書かれた感想には「メッセージ性、自由な発想、多様な表現に驚いた」「もっとたくさんの人に見てもらいたい」といった声が目立った。「(作者と)会話することで距離が縮まる。他人同士でなくなることが、偏見を減らすことにつながると実感しました」など対話の重要性に触れたものも多く、「簡単に結論めいたものは出せないが、これからも考えたい」ときっかけにした人もいた。【岡本同世】