18年間の生き方を表現 神戸朝高校生の美術作品 阪大で常設展示 /朝鮮新報 2015.3.15
https://www.chosonsinbo.com/jp/2015/03/il-551/
今年度の第43回在日朝鮮学生美術展覧会で金賞を授賞した神戸朝高生、呉世蘭さん(3月卒業)の作品「ⅩⅧ」が大阪大学の未来共生プログラム文理融合型研究棟6階ホールに常設展示されることになった。朝鮮学校の生徒の美術作品が国立施設に常設展示されるのは初めてのこと。16日、同大学で呉さんと保護者、神戸朝高教員らと、多文化共生社会を実現させるためのリーダーを育て上げることを目的とした未来共生イノベータープログラムの教員、大学院生による交流会が行われた。
大阪大学で行われた交流会の様子
技術よりも表現力
ことのきっかけは、同プログラムの榎井縁特任准教授が第43回在日朝鮮学生美術展覧会出雲展(島根県)に足を運び、神戸朝高美術部で主将を務めていた呉さんの作品に惚れ込んだことだった。長年、在住外国人支援の現場に携わり、朝鮮学校が抱える諸問題の研究にも取り組んできた榎井准教授は、作品からあふれ出る「民族教育や父母への思い、確固とした民族性」に感銘を受け、同プログラムの施設でその作品を常設展示することを決めた。
作品コンセプト文にはこう書かれている。
「ⅩⅧ」Since 1996.06.09 思考・錯誤・従順 私は6633という日を、こう生きた。
タイトルの「ⅩⅧ」は18歳を、1996.06.09は誕生日を指す。作品を織り成す3つの模様にはそれぞれ意味がある。
朝鮮語と日本語の文章が書かれている部分は「一発描き」で伸び伸びとした自由な「思考」を、黒い渦で練り潰されている部分は様々な考えが絡まりあう「錯誤」を、電子版が描かれている部分は決められたルートしか電気が走らないことから他者の意見に抗えない「従順」を表現。「シンプルかつ人の心に残る作品」を目指し、色彩はモノトーンで仕上げられた。
生まれてから学生美術展の審査を受ける日までの日数は6633日。それと同じ数の朝鮮語で縦180㎝、横90㎝の板に日々の思いを綴った作品は圧巻の一言だ。
文章にストーリー性はなく、普段から頭に浮かんだ事柄を書き記していたノートの中からいくつかの文章を抜粋して作品に書き記したと呉さんは話す。
「どうでもいいことから父母への感謝、在日朝鮮人としてのルーツ、同胞社会と日本社会との位置感などの内容を含め、自分の18年間の生き様を作品に込めた」
神戸朝高を卒業した呉さんは4月から京都造形芸術大学に入学する。
「表現よりも技術が先立たないように心がけ、朝鮮学校で育った私にしか成し得ないものを探求し続けたい。ぶれない軸を持ち、目は常に世界を見据えながら、見る者の感動と共感を呼び起こすような作品を作っていきたい」
呉世蘭さん
子どもたちの「自由さ」
交流会では呉さんが作品について、美術部担当の朴一南教員が在日朝鮮学生美術展覧会についてプレゼンテーションを行った。
朴一南教員は、学生美術展では審査をする上で作品の表層ではなく込められた作者の思いに目を向けていると強調し、朝鮮学校では「上手さ」を求めるより「自由な表現力」を尊重することによって子どもたちの感性を十二分に発揮できるように心がけていると語った。
呉さんの作品の持つ意味や民族教育の在り方は参加者たちに多くを語りかけていた。
文学研究科博士課程の高原耕平さん(31)は「芸術作品は一人で作り上げるものだと思っていたが考えを改めた。呉さんの育った土壌の中で様々な根っこ、すなわち多くの人々と深く絡み合ってきたからこそ、この作品が花咲いたと思う。在日朝鮮人の人々が美しい花を育てられるように、私たちがその土壌に光を当てていきたい」と力を込めた。
工学研究科修士課程の数実浩佑さん(24)は小学生の頃、一生懸命描いた絵を友達や先生たちに貶されて以降、絵を描くことを苦手に思うようになったと明かす。
「縛られ、知識だけを詰め込む教育が自分の心を乏しくしてしまった。だが朝鮮学校では子どもたちの『自由さ』が育まれている。教育の在り方を再考すべきではないか」
榎井准教授は「一人でも多くの人々が『朝鮮学校や在日朝鮮学生美術展に行こう』と思い、その尊さについて知ってもらえるように、在日朝鮮人社会と日本社会のつながりを深めていきたい」と語った。
呉さんの母、辛貞愛さん(50)は「仲のいい友達や親以上に温かく見守ってくれる教員たちに支えられてきたからこそ、このような成果を残せたと思う。娘の才能を引き出してくれたのは間違いなくウリハッキョ。心から感謝している」と語った。